
株式会社台湾番長のクライアントを紹介していくシリーズ、第1弾は浮世絵と現代アートを融合させた「令和浮世絵」を手がける「TOHIONA」の渡邊直仁さんです。なぜ、浮世絵師になったのか?どんな思いで海外進出をしていくのか。お話をうかがいました。
「いつの間にか浮世絵師になってたんです」
渡邊さんはそういって、からっとした笑顔を見せる。もともと絵は好きで、代々木アニメーション学院で絵の勉強もしていたが、卒業後は建築業界に就職。都内を拠点にエアコンの取り付けや家の修理、工事、メンテナンスなどの仕事に従事していた。
36歳の時に父が体調を崩し、地元である埼玉県朝霞市に戻った。父が行っていた不動産物件の管理を引き継ぐかたわら、自身の得意分野である工事の受注も受ける、という生活だった。
41歳の時に父が亡くなり、翌年には祖母が亡くなった。「渡邊家の長男」として、家族の財産についての話し合いをまとめる目まぐるしい日々。3年ほどしてようやくすべてが片付き、実家の土地も売却。その時に母に、「そろそろあんたも、好きなことをやってもいいんじゃないの?」と言われた。

「それまで無意識に『渡邊家の長男だから』という思いで人生を決めてきたところがありました。母の言葉で、全部フラットになったんだ、好きなことをやってもいいんだ!と目の前が開けた感じがありました」
ちょうどその頃、知人から「木版画の浮世絵を制作するプロジェクトに、出資者として入ってくれないか」という話があった。小学館プロダクションの許諾を受けて、ドラえもんを浮世絵として描くというもの。面白そうだ、と参加し、自分が以前代アニで学んだこと、30代後半に通信講座で絵本の勉強をし、絵本やLINEスタンプを作っていたことなどを話したら、「ぜひ描いてみてください」と言われた。
そこで見よう見まねで浮世絵を描いたのがはじまり。あれよあれよと流されるように、「浮世絵師・渡邊直仁」が誕生していた。44歳のときだった。
「絵のこと、業界のことをまったく知らないから入り込めたのかもしれません。『まあ、なんとかできるんじゃない?』という根拠のない自信がありました」

浮世絵を始めた時から、「海外展開をした方がいいだろう」という思いはあった。書道や茶道、花道など、日本に元からある日本文化は、日本人にとってある意味「当たり前」のもの。それが、海外に行った、評価された、という事実があれば、逆輸入の形で日本に受け入れられる状況があると知っていたからだ。
はじめはヨーロッパに進出したいと考えていたが、距離も時間も離れている。どうしようかと考えていた時、25年の7月に出会ったのが、外崎だった。知り合いの知り合いとして出会ったが、年齢も近いこともあり、すぐに意気投合。11月に外崎が主催した台湾ビジネスツアーに参加し、初めて台湾の地に降り立った。
「それまでフィリピンやカンボジアなどには行ったことがあったんですが、台湾は初めてでした。降り立った時に『あれ?』と。いい意味で日本の田舎町というか、海外っぽくない感じだなと思ったんです」

どこか懐かしい風景にも感じ、文化も似ているものがあるとわかった。街を歩いてみると、キャラクターがいたるところにあり、秋葉原のような雰囲気も感じた。「自分もここで勝負できるんじゃないのかな、という、可能性を感じた土地でした」
株式会社TOHIONAの社長を務めているのは、渡邊さんの妻であるさおりさん。ともに台湾の雰囲気を感じ、さおりさんが「台湾に出よう」とすぐに決めた。「台湾で実績を作り、店舗を構えたTOHIONAです」と逆輸入で売り込もう。そう決めてからは、動きが早かった。
現在は、台湾での法人設立手続きを進めている。いきなり店舗を構える前に、まずは知名度を上げようと、1月には台北のアートの展示会に出展。4月には台中のギャラリーに作品を展示するなど、精力的に台湾での活動を展開している。
台湾と日本の反応の違いについて聞いてみると、「ピュアですね」と渡邊さん。思ったことをそのまま、ストレートに言ってくれるのが新鮮だという。そして、とにかくスピードが速いという。「いいね」という話の直後には「じゃあ、いつうちに来てくれますか?」という話になっていることも普通にある。
「日本と全然スピード感が違うので、真由美さんにも『契約の部分はちゃんとしてね』と言われたりしていて、そこは気をつけないとなと思います。でも最初は認知を広めるんだったら、機会があればいろんなところに出ていこうと思ってます。あまりリスクを考えずに、まずはちょっと行動してみようかなと。それで反応を見たい、と思っていますね」

11月に初めて台湾に行ってから、1年もしないうちにどんどんと新しいフェーズへと進む。とんとん拍子ですが…と話を向けると「このぐらいのスピード感じゃないと、広がっていかないんじゃないかなと思います」と渡邊さん。世界情勢も不安定な今、出られる時に出ていこう、という気持ちも少なからずあるという。
実際に台湾進出を進めるにあたり、台湾での銀行口座の開設、法人設立手続きなどにも外崎が付き添い、力を貸してくれている。年齢が近いこともあり、時には厳しい指摘を受けることもあるが、それも受け入れやすいと感じている。「いつも真剣に向き合ってくれている、というのはすごく感じますね」
法人設立が完了したら、銀行口座を開設し、本格的に台湾での活動をスタートできる。渡邊さんは、台湾のみならず、台湾をハブにした東南アジア、さらには世界への展開も考えている。
5月には、カンヌ国際映画祭で、TOHIONAの浮世絵をデータ提供したドレスをまとったモデルが市内を歩き、「着るアート」「歩くカルチャー」として世界の舞台に進出。さらにフランスのワイン醸造所とコラボし、TOHIONAの絵を使ったラベルのワインが発売されることになった。
さらに9月には、Saint Michel Honor Prize「Lifetime Achievement in Visual Arts」部門を受賞し、「令和の浮世絵」が世界に発見されつつある。今後も台湾へ、世界へと、勢いを加速させていく。





